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「いつか。『あの頃は』なんて昔話を誰かとするんなら、他の奴らじゃなくてめぇとしてぇなぁ。」
「毒喰らった昨日みてぇな日も、そん時にゃ笑い話・・・・。いや、ホントは寝こけてただけなんて、今でも笑い話だけどよ・・・。」
「歳くっちまったら・・・。たまにゃぁ、・・・てめぇと会う事もあるのかねぇ?」
不覚にも敵の毒にやられて意識をなくした翌日だった。
寝過ごして飯を食いっぱぐれたまま不寝番になった俺に、腹に入れとけと皿を渡すと コックは視線を海にやって独り言のようにポツリと話し出したんだ。
何の話からそうなったのか解からないが、珍しく真面目に話し始めたそれは、半分を過ぎる頃にはふざけた調子に変わり。
そうして見せる顔は作り笑いのように儚く見えて 俺はなんだか締め付けられるような痛みを感じた。
サンジの作る美味くて温かな料理は、クルーをラウンジに引き寄せる。
その食事を口にしたものは例え少量でもその味に満足した表情を浮かべ。
腹が膨れるだけでなく心の奥底をほんわかと温める。
さっきまで敵だった奴でさえ、コックの食事を口にすればそれだけで打ち解けたように心を開き始めるんだ。
それは俺には到底まねできない魔法だ。
今日もラウンジはサンジの魔法で賑やかだ。
「ゾロー。体の方はもういいのか? 今日も串団子振り回してたけど無理はやめとけよ?」
「団子?団子どこにあるんだ?隠すなよウソップ!」
「うぉーーっ、ルフィ無ぇよ、そんなとこにゃ隠しゃしねぇよ。」
手に持った最後の肉をゴクリと咀嚼すると 船長はうまそうな単語を口にした狙撃手のオーバーオールの肩紐を引っ張りその腹の中を探ろうと手を伸ばし。
それから逃れる為に立ち上がった勢いで狙撃手は派手に椅子を倒した。相変わらず煩い奴らだ。
「うっさいわねぇ。」
「まだ食事中よ。」
ナミの鉄拳と同時に 次々に現れた腕で戻された椅子に二人は強制的に座らされ、頭には出来たばかりの瘤が湯気を立てている。
この船の女共は実に大胆で、その潔さの中にはたまに思いやりもあり・・って・・・あるのか?・・・コック曰く『大変魅力的』なのだが。
「俺にはとてもわからねぇ。」
魔女にも例えられる事のある女達に 俺はそんな感情を抱く気持ちがわからない。 声に出したつもりは無いが どうやらそれを口にしていたらしい。
「え?ゾロまだどこか調子悪いのか?」
皿に残ったスープをパンの欠片で掬っていた船医が 俺の呟きに顔を上げると心配そうに眉を寄せた。
「いや。もうなんともねぇ、ありがとなチョッパー。」
「本当か?気になる事あったらすぐに言えよ。」
あぁ。と軽く返して何気なくコックを見れば、こちらを見るその目が一瞬心配そうに揺れた。
だがそれも俺と目が合うとなりを潜め、代わりに口端を引き上げ見慣れた挑発的な顔になり 口からは嫌味とも取れる言葉があふれ出す。
人前での言葉や態度とは裏腹な、とても素直とは言えねぇコイツにいらぬ心配はさせたくない。第一体調はもう万全だ。
コックからの売り言葉に乗って俺は言葉を返し、いつものように喧嘩になりかけたところで、こちらにもナミの制裁が向けられる。
「まったく。 あんた達ってば、毎度毎度元気ねー。・・・毒ぐらいじゃあんたは死にやしないわよねー。」
いってぇなぁ。人の頭をぽかぽかと殴りやがって、この女。
どちらかと言ゃぁ、てめぇのほうが容赦ねぇと思うが・・?
「そうですよ~ナミさんvvこのマリモには毒は効かないンですねー、・・・お前新種か?」
ナミにハートを飛ばし、振り返りバカにした顔で俺を見る。 ・・・新種はお前だクソコック。
「けっ、馬鹿が。」
「なんだとぉ。」
小さな呟きも聞き逃さないコックの投げたお玉が、避けることをしなかった俺の頭に命中する。
(あ、やべぇ。) という顔を一瞬だけ覗かせて 「とろくせェマリモだな。」すぐにいつものクルーの前での顔に戻る。
こんなコックの仕草が可愛いと思う。
俺の小さな言葉も聞き逃さない。ホントは心配してんのに表には出さない。・・・二人っきりの時にはもう少し素直なくせに・・。
全く可愛い奴だ。・・・こんな事本人にゃ口が裂けても言えんがな。
鼻の残していた肉をルフィが横取りした揉め事の方にコックは行ってしまった。チッつまんねぇな。
「「ウフフフ。」」
ナミとロビンが顔を見合わせて笑っている。
「なんだ。」俺を見て笑ってんじゃねぇ、こいつら気味悪ぃ。
「剣士さん、顔が緩んでるわよ。」
なんなんだ。この女は侮れねぇ。昨日も二人でいるところに出てきやがって(手だけだったけどよ)。何を考えてるんだか未だにわかりゃしねぇ。
「や~ね。」
この魔女。何が『や~ね。』だ。てめぇのその含み笑いの方がよっぽど『や~ね。』だぜ。
ドタバタと追いかけられたルフィがテーブルの周りを走り、手を付いた拍子に皿が勢いよくひっくり返る。
運悪くそのとばっちりを受けたコックの顔にホワイトシチューの飛沫が飛んだ。
まだ走り回ってたのか馬鹿どもめ、・・・コック。その顔やらしいぞ。
「もったいねぇ。」
!! 何しやがんだ!この野郎離れろ。
ルフィは逃げるのをやめると コックの頬に付いたシチューをぺロリと舐めた。
ひっぱがそうと腰を浮かすのと同じ頃 ナミが声を押さえて笑い出す。?・・気でも狂ったかこの魔女?
静かになったラウンジの注目を浴びると 魔女は、『ごめんごめん』と言いながらまた少し笑った。
「あんた達毎日飽きないわねって思ったらつい・・・。」「なんかねー。いつまでこんな風にしてられるのかしらっておもって。」
「俺はじいさんになっても冒険を続けるぞ。」
巻き付いていたコックから離れるとルフィは意気揚々と腕を上げた。 ・・・ようやく離れたか、もう勝手にくっつくんじゃねぇ。
他の奴らもそれぞれ何か言ってたが俺は、コックが舐められた頬を腕で拭うのをじっと見ていた。
よしよし、ルフィの痕跡なんて残すんじゃねぇぞ。
「──サンジくんは 年取っても今のままなのかしらね~。」
「俺?俺はナミさんやロビンちゃんにいつでも一番に給仕しますよー。麗しいレディお二人とはいつまでも・・・・・。」
ナミの声に コックがメロリーンと鼻の下を伸ばす。そんなだらしねぇツラしてんじゃねぇよ。
『いつまでも』?何言ってやがるこのぐる眉。
いつまでも一緒なのは俺と だろうが。ちくりと腹の辺が騒ぐ。
なんだこれ。 つい最近もこんな感じがあった。・・・あぁ。船縁でコックの独り言を聞いた日だ。
『歳くっちまったら・・・。たまにゃぁ、・・・てめぇと会う事もあるのかねぇ?』 引っかかったのはこの言葉だ。
お前の未来で俺は何処にいる? そこでも俺は迷子なのか?
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